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2008.04.07

 すれ違った犬たち

少し前にはどこを歩いても飼い主と散歩中のレトリバー種の犬がいた。それからテディベアカットのプードルやミニチュアダックス、チワワ、コルギーといった中・小型犬の姿が増え、最近は黒毛の柴犬を連れた人をよく目にする。この犬は私が小さい頃によく見かけた、「四ツ」と呼ばれた、目の上に四つ目のような班のある雑種の黒犬に似ている。私はそういった犬の賢げな顔立ちが好きだったのだが、親達は「山犬の血が混じっている」といって敬遠していた。

私が子供時代を過ごしたのは田舎の荒涼とした町のはずれで、放し飼いや野良の犬があたりまえのようにそこいらをうろうろしていた。その頃その辺りでは犬はずいぶん野放図に飼われていたから、子供の目には巨大なシェパードや、熊や猪狩りに使われるという小柄だが気の強い猟犬や、近所の肉屋が飼っている闘犬(店主は散歩の時わざと長めに鎖を持つ)や、愛らしい顔をしているけれど口輪がその信頼感を損ねている中型犬が鎖をいっぱいに引いて吠え立てる中を、それほどには危険ではない放し飼いの犬と、少し緊張して、すれ違いながら学校に通っていた。

小学校の周りには入れかわり立ちかわり気のいい犬がやって来て、渡り廊下の横で通りかかる子供達に嬉々として腹を見せたりしていた。時々授業中の教室まで入り込んでくる犬もいたが、追い出されるとしばらく校庭で所在なげに遊具を嗅いだりしながら、やがて何事かを思い出したといった様子で門から出て行った。
当時一部の校舎はまだ木造だったのだが、ある日友達が大発見をしたという顔で私を呼ぶので行ってみると、教室の床の節穴を覗いてみろという。見ると、その床下の暗がりに、ぽかんと丸いうつろな眼窩の、ひからびた犬の死骸があった。何があったのか、とにかくその犬は床下に入り、節穴から漏れる光と子供達のざわめきの下で死んだのだ。

犬と子供達は着かず離れず、しかしおそらくとても近いところで、何か生々しいものを共有していたような気がする。そこでは私達子供は「がき」だったし、犬達は「畜生」といったようなものだった。「野犬」という恐ろしげで事務的な言葉がその頃あったのかは記憶にない。あの日本犬独特の姿かたちをした雑種の犬達を、最近はあまり見かけることがなくなった。

いくつの頃だったかは思い出せないのだけれど、川沿いの自転車道路を母に連れられて歩いていた時のことだ。天気のいいのどかな日で、広い河川敷はカランと人気がなく、遠くに陽炎が立っていた。向こうから白に赤いブチの、マスチフが入ったような顔つきの垂れ耳の犬が歩いてくるのが見えたが、おぼつかない足取りで近づいてくるにつれ、犬の半開きの垂れた口から血の泡を吹いているのが分かり、アスファルトには点々と血が落ちていた。すれ違いざまに一瞬こちらを見上げた時の、犬の血走った悲しく、しかし何かを諦観したかのような目を今でも忘れることができない。しばらく歩いたところで振り返ると、犬の姿はよろめきながら、もう随分遠くにあった。

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