ヴィクトリア (The Fall)
先日mikiさんのブログにおうかがいした時にmikiさんとお話したことなのだけれど、あるミュージック・シーンの音楽が、その町の印象に与える影響は結構大きいのではないか。
つまりマンチェスターというと、行ったことのない自分には何となくザ・スミスの“Manchester, so much to answer”的なものとか、あるいはいわゆる“マッドチェスター”のイメージの刷り込みが強烈だし、例えばシェフィールドといって個人的にダイレクトに思い出すのは、市民の皆さんには「すみません」としか言いようがないけどアレだ、ミスター・ホルモン、ジャーヴィス・コッカー率いるパルプの“シェフィールド・セックス・シティ”。むっとする街をさ迷い絶望的な性的妄想を垂れ流す、あえぎ混じりの8分32秒。
マンチェスターも近年は景気がいいようで、mikiさんの観戦記によればかの町も再開発が進み、サッチャー政権下のステレオタイプ的なイメージ(いや私だけか)で行くと肩透かしをくらうようなのだけど、UKの音楽シーンに最近それほどのパワーを感じないのは、案外こんなところに原因があるような気もする。
話は変わりますが、実を言えば“マッドチェスター”ムーブメント華やかなりし頃、あまりのメディアの喧騒に、私はもっぱらアメリカに避難していました。そんなわけで、一部を除いて、この頃のバンドはそれほど聴き込んでいなかったりする。ええ天邪鬼なんです。
で、個人的にマンチェスターのバンドというと、なぜかザ・フォール。スミスはスミスでもマーク・E・スミスなんである。
ザ・フォールというと、悪意的に単調なギター・リフをバックにおっさんが毒づいてるだけのシ(イ)ロモノに聴こえるかもしれないが(事実そう)、実際、シーンに及ぼしてきた影響はとんでもなく大きい。
マンチェスターのバンドでマイ・ベストイレブンを選出するならば、ザ・フォール孤高の1トップ。これです。
(以下妄想) 主力FWの負傷により、ベテラン久々のスタメンながら、動きの怪しい中盤、瞳孔の開ききった最終ラインの前で孤立しまくり、やる気なさそうにフラフラしながら、誰にも聞き取れないスラングで悪態をつくマーク・E・スミス御大。
後半60分、※左SBインスパイラル・カーペッツからかろうじて上がったぞんざいなクロスを、なんだよこりゃあ俺はアル中なんだよ、と、後足で砂をかけるかのような挑発的なヒールでゴール。歓喜に湧き上がるスタンドに向け、おっさんはやおら拡声器を手にして「こんな大人数の馬鹿どもを見たのは生まれて初めてだ!!!」。こんなおっさんだがインテリである。酔いの回った75分、主審を殴って退場。
先日のCLで、ルーニーが主審を挑発して退場になった場面は記憶に新しいけれど、こういった話が紙面を飾るたび、ふと考えてしまうのはイギリスの階級社会のことだ。
もちろんイギリス社会の現状にはまったく詳しくないし、選手達がどのクラスの出身かも知らないのでいい加減なことを言ってはいけないけど、ワーキング・クラスの反骨的なメンタリティといったようなものを、イングランドフットボールの世界から感じることがある。
※マーク・Eがインスパイラル・カーペッツと共演したシングルがあったんだけどタイトルは忘れた。あやふやな記憶によれば、おっさんは散々あの辺のバンドを叩いてたはずだが。
そういえば家のどこかに、マーク・Eとニック・ケイヴとシェーン・マガウアンの戦慄の3者対談の載った音楽紙があったはずなんだけど、見つからない。
<今日の音楽日記>
フランツの新譜を聴く。重要なような気もするし、どうでもいいような気もする。
もうちょっと聴いてみるけど多分1stの方がいい。
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Comments
マンチェスターと言えばJoy Division→New Orderで、おマンチェ時代もThe Smiths→Rosesという、全く計らずしもユナイテッド・ファンとしての系譜を愛聴していた私でして、シティ・ファンのザ・フォールはあまり聴いた覚えがないんです・・いや、ホントに他意はなくて。ゴメンナサイ。でも解りやすい比喩で
すね。>孤高の1トップ。オアシスが出てきた頃から新譜を聴かなくなって・・今や記憶すら曖昧かも。あ、フランツは聴いてみたい。
マンチェスターのイメージはユナイテッドの前にやっぱりバンドから。ダメダメ人間がつるんでハンド・イン・グローヴな所かと。マンチェスターもO.Tも当時とは変わったでしょうね。プレミアが始まったことは音楽界、いや英国自体ともリンクしてるのでしょう。
>ワーキング・クラスの反骨的なメンタリティ
よく解ります。ユナイテッドはビッグ・クラブではあるけど、チームのメンタリティは正しくそれ。アイリッシュやスコテッシュも含めて意地っ張りな自尊心が支えているんだと思わされます。チェルシーやアーセナル(ロンドンだし)には感じませんけど。
でも、フランスでもフットボールは労働者階級(&移民)として下に見られ、ブルジョワはラグビーだっていう事を聞いたんですが、いかがでしょう。
P.S ジュニーニョ・ペルナンブカーノってN.ケイヴに似てません?顔だけ。
Posted by: minaco. | 2005.10.11 00:36
キンクス『ヴィクトリア』のザ・フォール・ヴァージョン(皮肉と悪意が5割増に聞こえる)で彼らの魅力に気付いたnickiです。
>ザ・フォールというと、悪意的に単調なギター・リフをバックにおっさんが毒づいてるだけのシ(イ)ロモノに聴こえるかもしれないが(事実そう)
つまり↑が凄いのだと信じております。
リアルタイムで聴いていないので、ザ・スミスよりマーク・E・スミスの方が面白い。
>酔いの回った75分、主審を殴って退場。
最高のオチです(笑)
正直ザ・スミスにありがたみを感じないんですよね。ザ・ザのギターの人がやっていたバンド、という程度の認識なので筋金入りのUKファンの前ではスミスの話が出ないよう、ひたすら願っております。
ついでに白状しますとワタクシ、ユナイテッドよりシティ派です。ユナイテッドは『観察する』チーム。
"マンチェスターの赤い悪魔"より"マンチェスターの青い馬鹿"でございます。
マッドチェスターなるものが世をにぎわせてたころに中学生位だったもので、おーローゼス最高!とか言いながら若気の至りでフレアパンツはいてたりしましたが(恥)結局ローゼスとハピマン以外は好きになれず、私の"おマンチェ期"はあっという間に終了してしまったのでした。
しかし、サッカーファンになってから『マンチェスター』という単語が出るたびに恥ずかしい青春の1ページを思い出すことになろうとは・・・。
ジュニ-ニョPを可能な限り絞る、もしくはNケイヴを可能な限り健康体にする・・・と両者は近づくと思います。
Posted by: nicki | 2005.10.11 01:16
>minaco.さん
>ザ・フォールはあまり聴いた覚えがないんです・・
いや私も、好き好んで聴いてる自分はどんなものか、と自問することがあります。
孤高の1トップですが、ゼヒ中盤で腰をくいくいするモリッシーとイアン・ブラウンの猿ダンス、最終ラインのベズ(使えねえ…)なども重ねてご想像ください。
>反骨的なメンタリティ
ワーキング・クラスのバンドは、基本的にミドル・クラスのバンドに対して「ケッ」てとこありますよね。反対に、ブラーみたいなバンドが、ワーキング・クラスのアクセントを強調してみたり。
プレミアの選手の素行がいろいろ話題になったりするけど、日本人的な感覚で批判したりするのはちょっと微妙かな、と思う時もあります。
フランス社会のことは私もよく分からないのですが、パリに関して言えば、他に自転車やラグビーやテニスなど楽しめるものがいろいろあって、フットボールはちょっとお下品、みたいな印象があるみたいです。移民への感情とかデリケートな部分もありますが、イギリスほどキッチリした階級意識はないのでは?
>ジュニーニョ・ペルナンブカーノ
あー言われてみれば!!
ジュニーニョってスポーツ選手のわりに、妙に目元が不健康っぽい…
Posted by: つき | 2005.10.11 21:49
>nickiさん
マーク・Eは最高ですね。とにかく口を開けば期待(何の)を裏切ることがない!イギリス人独特のシニカルさっていうのが好きなんです。やっぱり毒舌はセンス・オブ・ユーモアとインテリジェンス。
>最高のオチです(笑)
主審を侮辱して退場でもいいかナと思ったんですがいつものことだし(ハハハ…)。おっさんもかつてはよく酔って人を殴ったりしてたみたいなので。
>ザ・スミス
私の場合は上に兄弟がいて、ガキの頃から洋楽を聴いてたんですが、自覚的に聴き始めた頃が、ちょうどスミスがブレイクして、UKシーンがネオ・サイケデリックからネオ・アコースティックに移行する頃だったんです。
スミスは音楽的にも社会的にも、あのサッチャー政権時代の北部の空気を象徴するようなところがありました。でも、たちまちスミスモドキバンドばっかりになってしまって、そのへんはマッドチェスターと状況は同じですよね。で、やっぱりアメリカのカレッジ・ラジオ・シーンに逃げて、REMなんかを聴いたりしました。
>"マンチェスターの赤い悪魔"より"マンチェスターの青い馬鹿"
まゆげの兄弟の影響で、私もフットボールに関心のなかった頃は、むしろシティの方がメジャー感ありました。フットボールを見始めてからも、シティが1部に上がってくるなんてニュースを聞くと、おおー、なんて思ったものです。
>フレアパンツ
いいじゃないですか、青春時代しかできない!
>ヴィクトリア」
ザ・フォール・ヴァージョンを、ソニック・ユースがさらにカバーしたりしてましたね。
Posted by: つき | 2005.10.11 22:23
ザ・フォール、私も聴けば多分好きになると思います。やっぱ記憶が飛んでて、おマンチェブームってそもそもどの辺りをいうのか怪しくなってきました。スミスはそれ以前か・・。
私もR.E.Mや1,000へ行ったり、モノクロームセットやチェリーレッドも大好きでした。あ、今日は懐かしくスタカン聴いてました。ジャム~スタカン世代。年がバレるわ。
シティも決して嫌いじゃないです。むしろ・・。
Posted by: minaco. | 2005.10.12 01:39
うーん私はマンチェスター・ムーブメント=マッドチェスターだと思ってた…。
スミスが解散して次のスターを探していたところにバッチリはまったのがローゼズだったかと。マッドチェスターはダンス・ミュージックやドラッグ・・・レイヴ・カルチャーと結びついたシーンでしたね。
>私もR.E.Mや1,000へ行ったり、モノクロームセットやチェリーレッドも大好きでした
あー私も好きです~。ビド~。REMは何だかんだ言ってIRSの頃が好きです。いいバンドがいっぱいいるレーベルでした。
Posted by: つき | 2005.10.13 23:53
イギリス発の音楽を随分たくさん聴いてきたわりに、私はイギリスという国の事情にかなり疎く、つい最近まで地図上のどこにロンドンがあるのかすらあやふやでした。けどスイートホームアラバマやネブラスカがどこにあるか知ってるかと問われれば知らないので、まあそんなもんかなという気もします。ロンドン含めイギリス全体に「行ってみたい」と思わせる魅力が「私には」なかった。そのへん、音楽のシュミと分断されてるのが逆に興味深いのですがね。そんな、どーでもよかったイギリスですが、旅行から戻って2ヶ月経った今、ジワジワと「ロンドンはなかなかいいところだったかもしれない、かも」と思い直している一方、マンチェスターはナンも面白くなさそうだったというのが正直なところで(笑)、つまりそういう一地方都市なんだと思います。生きる場所、そこから出て行く場所、朝起きて車乗ってボール蹴ってお給料貰う場所としては全く問題ない街ですけど、観光するところじゃないですね。やや当たり前か。
ユナイテッドに対して抱いた印象はここにいらっしゃってるみなさんとはやや違い、私にはとてもsnobbishでした。それはファンじゃない人に向けた余所行きの表情なのかもしれないけど・・・いや、どうなんだろう、実際あそこに行くまでは労働者階級スポーツの権化みたいな土臭いものを想像してたんだけどな。
Stone Rosesが出てきた時、3ヶ月間毎日それしか聴かなかったのに、実は彼らの背景などはよく知らんです。マンチェスターの音楽に対して私はあんまりマジメなファンじゃなかったのかもしれません。でも好き。好きな音楽をたくさん輩出してくれた街。それが私にとってのあの街の全てです。
Posted by: miki | 2005.10.17 23:47
あっmikiさん!勝手にリンクしちゃってすみません!
都市観光というとやっぱり歴史とか文化とかを見たいわけで、マンチェスターはもともと工場町らしいし、サッチャー政権で北部の工業地帯が切られた時に、一度リセットされちゃったのかもしれないですね。
音楽的には、あの当時は他に何にもなくて、若い人達も職がなくて、そんなところから盛り上がってきたシーンなのかな、と。
>ユナイテッド
前にTVで、オールド・トラフォードで働く人達みたいな特集をやってたんですが、何だかテーマパークみたいでしたねー。フットボールはビッグ・ビジネスでもあるんだなあと。観光客や高いチケットを買える層にターゲットを合わせているのかも。
ピッチを見ればルーニーやスミスみたいなのがいて、×××な言葉が飛び交ってたり、そんな二面性がある気がします。
なんとかムーブメントなんて、結局プレスや業界がでっち上げる部分が大きくて、本当に「聴ける」のはその中の一握りだったりしますね。ミュージシャンにしてみれば、「背景」なんかより「音楽」を聴いてくれ!ってところじゃないかなあ。だからmikiさんは正しいんですよ。
私はまだフットボールのマンチェスターと、音楽のマンチェスターがうまく一致してなくて、イアン・ブラウンがエインセの話をしてたりすると、なんだか不思議な感じです。
Posted by: つき | 2005.10.18 23:23
こんにちは、はじめまして。
R.E.M.で検索して飛んできました。
R.E.M.をこよなく愛するRyuと申します。
3月のR.E.M.来日をきっかけに、また来年もR.E.M.を日本に呼ぼうというウェブ署名運動を始めました。
もしよろしければご協力ください。
署名が無理でしたら、リンクを貼っていただくだけでも大変ありがたいです。
突然の書き込みで失礼をお許しください。
それでは。
署名はこちらから↓
http://homepage3.nifty.com/%7emaruchan/rem/rem.htm
Posted by: Ryu | 2005.11.08 00:52
Ryuさん、はじめまして。
私がREMのライブを見たのはグリーン・ツアーの時が最後で、現在はあまりいいリスナーではないのかもしれませんが…。
署名の方、後ほど拝見させていただきます。
Posted by: つき | 2005.11.09 02:02
つきさん
ご丁寧にコメントを付けていただいてありがとうございます。現在、不定期にできる範囲でこの活動を宣伝すべく、「R.E.M.」をキーワードに検索をかけて何十人かの方のブログ等に書き込みをさせていただいています。が、親記事が来日時の古いものな場合が多くなかなか反応がなく苦戦しております。署名は無理でもかまいませんので、何かの折に話題にしていただければ大変嬉しいです。本当にありがとうございました。
Posted by: Ryu | 2005.11.09 14:57