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2005.03.15

紅梅にのせてほすなり

池袋の沿線や、ほど近い目白にしばらく住んでいたことがある。当時の池袋東口にはまだセゾン美術館があって、現代美術の展覧会を見てから、出口のセルフサービスのカフェの明治通りに面したカウンターで、コーヒーとワッフルなんかで無駄話したり図録を眺めたりして、それからエスカレーターで地下に降り、アール・ヴィヴァンでアートブックのサンプルを立ち読みしたり、向かいのリブロの平積みをチェックする。時々エスカレーター脇のバーコーナーで、当時のリブロの店長さんとおぼしき女性が打ち合わせをしている姿を見かけたりした。

リブロのレジには時々、目白在住の作家、金井美恵子さんのサイン本が置いてあって、それも買う。どうしてこんな話をしているかというと、今うちの周辺では紅梅が満開を少し過ぎたところなんだけど、この時期また金井さんの「タマや」あたりを読み直したりしていて、それはいわゆる「目白四部作」の主要な舞台の1つが「紅梅荘」というアパートだからだっていう、しごーく単純な理由。

金井さんはセンテンスの長い独特の文体で、会話文も地の文に混ざって途切れるともなく続いていき、話自体も大抵、特に「発展的な」展開があるわけでもない。
ハーフで住所不定無職のアレクサンドルが、一応フリーのカメラマンで小説中終始うんざりしたり苛苛したりすごく疲れたりしている夏之を相手に、知ってる?「紅梅にのせてほすなり洗猫」という一茶の俳句があるんだよ、中学の国語の教科書に載っててね、これだけは、どういうわけか、おぼえてるのね。この場合、紅梅にのせてほすのは、白と黒のブチの猫が、色彩学的にもぴったりキマリだよね、ハハン?なんて話をダラダラやってる、そういう小説の時間に身を任せているのが、なんかすっごく気持ちいいのだ。

「細部に淫することで生じてしまう小説の物語的機能の失調状態の楽しさ」
(「恋愛太平記」あとがき)
うんそれそれ。

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