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2004.07.08

 ディスクレビュー ジェイムス

ReviewjamesJames "Laid" (1993)
Tim Booth "Bone" (2004)

女装したメンバーがバナナを手にして立っているユーモラスなカヴァー・フォト。ジェイムスのアルバム“Laid”のアートワークは、セクシュアルなタイトル曲の歌詞「君は僕に女物の服を着せてジェンダーを滅茶苦茶にする」という一節のイメージなのだろうけど、奇抜さよりは、どことない風通しのよさを感じさせて好きだ。バンドのヴォーカリスト、ティム・ブースの発案なのだそうで、メンバー全員がこの写真を気に入り、急遽、予定されていたものと差し替えになったのだという。

80年代の初めにマンチェスターで活動を始めたジェイムスは、当時はザ・スミスの成功と数多くのインディ・ギターバンドの陰に隠れ、またコマーシャリズムに対する潔癖さもあって10年近い不遇の時期を送ったが、フォンタナに移籍後、アルバム“Gold Mother”とシングル“Sit Down”の大ヒットで、90年代のマンチェスター・ムーヴメントに乗り一気にシーンに浮上した。
以降、スタジアム・バンドばりのダイナミックなサウンドで驚かせた“Seven”、一転してニール・ヤングのツアー・サポートでインスパイアされたというアコースティックな“Laid”、その“Laid”と平行してレコーディングされた実験的な即興アルバム“WAH WAH”と、このバンドの歴史はストイックな音楽的挑戦の連続だった。

(プロデューサーのブライアン・イーノの意見に反して)個人的には彼らの最高傑作だと思っている“Whiplash”以降の2作“Millionaires”、“Pleased to meet you”は、その完成度にもかかわらずやや思い入れが弱い、というのはソング・ライティングの中心になったサウル・デイヴィスの音楽性と私の趣味がいま1つ合わなかったということなのかもしれないけど、“Millionaires”を聞いた当初は何かが微妙にスライドしているかのような印象がもどかしく、かろうじてティム・ブースの歌声がそれを繋ぎとめているかのようだった。
それから01年にティムがバンドを脱退して、感動的なマンチェスターでのフェアウェル・ライヴの後、彼はもう音楽の世界には戻ってこないかもしれないと漠然と思っていたのだった。

例えばジェイムスを聴く人がまず最初に耳をひかれるのは、このティム・ブースの伸びやかで奔放な歌声なのではないだろうか。アルバム“Bone”は、脱退後約2年を経てリリースされた、ティムの2枚目のソロアルバム。彼は相変わらず歌にすべてのエモーションを込められるシンガーであり続けている。

ここにはジェイムスの持っていた濃密なテンションはないが、代わりにリラックスした、親和的な空気に満ちている。ダンス・ミュージックの要素を取り入れた曲、ジェイムスを思わせるような曲、そして、彼のルーツであるストゥージーズ辺りを髣髴とさせるラフなロックンロール・ナンバーもある。でも、そんなことはどうでもいい、ティム・ブースの世界だ。ゆるやかな意識の流れ、彼の息遣いのようだ。エンディングの曲に心が震える。

正直なところ、スポーツに蔓延するマッチョは苦手だ。世界を勝者敗者で単純に切り分けるような価値観には馴染めない。自分が少しフットボールの論理にまみれすぎたと思う時、ジェイムスを、そしてティム・ブースの歌声を聴く。彼らの音楽の持つ力強さはスピリチュアルな強さであり、存在の強さとも言えるものだ。だから強靭で、しなやかで、解放されている。

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