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2004.03.14

 ディスクレビュー XTC

ReviewxtcXTC "Apple Venus Volume 1" (1999)

XTCのCDを購入するということは、WWFに募金するかのような、ある種敬虔な思いにとらわれるものなのだ。

とは言っても、一番最近買ったのが99年の“Apple Venus Volume 1”だから(vol.2はなんとなく未聴)、5年も前のことになるのだけど、XTCが聴きたくなる周期というのがあって、そのたび旧譜を繰り返し聴いているから、それほどのブランクは感じない。彼らはどちらかというと日本の方が熱烈なファンが多いようで、イギリス本国では長らく世捨て人的な評価を下され、プレスからもほとんど無視されていた。でも時流におもねらず自らの音楽的姿勢を貫いていることで、かえって時間の経過をあまり気にせずに聴くことができる。

“Apple Venus vol.1”は、2部作のアコースティック・サイド。オーケストラを導入し、彼らのいかにもパワー・ポップという感じの作品に比べるとやや内省的なトーンの、知的でデリケイトで美しい作品。リリースされたばかりの頃、シングル曲“Easter Theatre”がヴァージン・メガストアの館内でかかっているのをたまたま耳にして、もちろんその場でレジに直行した。あの時の、空間がみるみるひんやりとした湿度を含んだ空気に満たされていくような奇妙な感覚は忘れられない。すぐにそれと分かるアンディ・パートリッジの歌声と、独特のメロディ。とても複雑で、でも限りなくポップ。

ポップ・ミュージックとしての完成度を求めるあまりに、時に自己完結的になりすぎることもあって、そこが「ポップ職人」的な言われ方をする所以でもあるのだろうけど、このアルバムの“I can't own her”からラストに至る深く美しい数曲を聴いていると、触れた指先から染み入ってくるものが、確かにあるのだ。XTCを語る時に(多くは否定的な意味合いで)よく言われる「趣味的」という言葉がひどく陳腐に思えるほどにストイックなアルバム。

それにしても、XTCはなんてイギリス的なバンドなんだろう?

小腹のすいた時に吉田健一の英国についてのエッセイを読んでいると、つい美味しいトーストとマーマレードが恋しくなるのだけど、その「マアマレイド」はもちろん「オレンジの皮で作ってあるのに苦味もなくてただ甘いジャム」ではなくて、「濃い茶色が光線の加減で金色に見える」「はっきりオレンジの皮の味がして苦い」ものでなきゃならない。XTCの音楽は、例えて言うならオレンジマーマレードの印象、だろうか。ポップな甘さと苦い知性、ガラス瓶の中で、ゼリー状の琥珀色の夢を見ている。これもまた、とてもイギリス的だ。

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